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携帯日記。未完成設定とか妄想とか
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「あ~~~~……」

進路資料室、古ぼけた色のカーテンからは薄ぼんやりとした太陽しか伝わって来ない。その光と微熱から遠ざかるようにして、彼は冷たい廊下の空気が入り込む入口近くに立っている。

「何やってんの俺、カッコ悪…」
細いフレームの眼鏡の向こう、明るい色の瞳は悩ましげな様子。
本棚に入り切らずに積み重ねられた、歴代の赤本をパラパラと捲るが内容は読んでいない、何かしていないと落ち着かないだけだ。
「いきなりあんな言い方無いよね…あーもう本当ダサい」
パタン、と赤本を閉じ、寄贈してくれた卒業生には罰当たりなことに足元にそのまま落とす。
バサッと音を立てて折れ曲がるページ。目をやることもなく向こう5メートルの窓際まで歩く。数歩でたどり着く其処で、春を待つ風景を見つめる。
木枯らしが叫んでいる、春を待つ叫びか、春を恐れる叫びか。
俺なら後者だなぁ、と思う。

学生生活なんてあっという間だ。同じ高校に入学して、3年間、それだけあれば、十分だと思っていた。
だけど彼女が隣にいたその月日はあまりにも早すぎて。過ぎ去ってしまって。
下らんとか、黙れとか、辛辣なトゲの数々に傷ついたことはない。それが彼女だから。はっきりとした潔白で気高い大好きな人だから。
むしろ傷ついたのは、ある時同学年の男子に呼び出されて、とても、とても優しい声で申し訳なさそうに謝っていた時のことだ。
たまたま廊下の隅で目撃した、小柄な彼女の横顔を。
――すまない、君の気持ちは嬉しいが、それに応えることは私には出来ない。
――うん、慕う人物がいるからな、…だから付き合うことは出来ない。ごめん。
ああいう風なのか、と思った。
自分もああやって散らされるんだろうな、と思った。
梅の花が、美しい花弁を散らす時の、あれ。
彼女なりの申し訳ないという気持ち。憐れみ。憂い。贖罪のフラワーシャワー。
ちらちら、ひらひら。綺麗だ、見事だ、華やかだ。だけど自分を飾る華にはなってくれない。
肩や髪の毛にふわりと乗るけど、その小さな花びらはいなくなってしまう。
寸時の贈り物だ。

その悲しい贈り物を受け取りたくなくて、自分が風になってきた。読ませない考えとフィルターのような飄々とした笑顔や態度。
軽い存在になりたがった。君の花びらを受け取りたくなくて。
餞別のようなフラワーシャワーを浴びたくなくて。

「でも限界だったのかな」
溝というか壁というか、近くて遠いその距離を望んだのは自分だ。近づけば浴びてしまいそうだった、梅の華のフラワーシャワー。
それなのに望んでしまう。それらを抜けて、手を伸ばせはしないかと。小さな花びらを避け進む、という危険を冒してまでも、その木のもとへ行きたい。

……そして、言ってしまった。
出だしは上手くいったつもりだった。いつも通りの彼女、いつも通りの自分。つっけんどんと飄々と。
だけど気付けば崩してしまっていた。お互いの、『いつも通り』を。
あんな自分たちは、中学の時ですらなかったと思う。初めてだ。

「…あー、寒いな、此処」
資料室から繋がる第二資料室。3階建ての校舎で2階に位置するこの2部屋は、自習場所としても成り立つが利用者は少ない。
大抵の生徒は教室で勉強する。理由、暖房があるから。
彼女は普段3階にあるちゃんとした自習室を使う。理由、人が少ないから。
少年、辻村縁は第二資料室を使う。理由、こっそりストーブを見つけたから。誰もそれを知らず此処には来ないから。

彼女に会いたくないから。
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女性
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1994/07/15
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学生
趣味:
絵を描くのと読書
自己紹介:
草ポケ大好きの福岡県民。
杏仁豆腐とワラビもちとワッフルとモミジまんじゅうとその他もろもろが好きです(分からん
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