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携帯日記。未完成設定とか妄想とか
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また枯らしたのか、と声がした。

その声がどこからしたのか僕は知らない。対面している相手のものか、僕自身のものなのかあるいは、人知を超えた存在か――。

「祐希、フランスへは行ったことある?」
ゆき、と転がすような響き。僕の名前だ。ゆうきと言われることが多い。
彼は振り向きながらまだ声変わりの済んでいない音を紡ぎ出す。
当たり前か、まだ十二歳だ。そして僕の弟だ。
今日からはそうじゃないけれど。

「…無いな。」
「そっか。」
短い会話は終わる。やっぱり僕らの溝は深いな、とガラにもなく詩的な表現をしてみた。
ふと目をやると、弟は既に僕のことなど見ておらず周りの花壇をいじっていた。
この庭でこんな会話をするのは、きっと今日が最後だろう。

僕らの両親は弟が二歳の頃から別居しており、僕はその時四歳だった。
その後僕が十歳になる頃、フランスで暮らしていた弟と母が日本に移ってきた。両親がもう一度やり直そうとしたらしい。
突然母と弟が出来たその日、もしかしたら僕は幸せになるかもしれないと思った。
母がいないことでそれとなく周りから馬鹿にされていた自覚はあったし、自分でも両親、兄弟というものに憧れていたと思う。

弟には僕を祐希と呼び捨てにさせた。出来る限り近い存在でありたかった。
彼はすぐに僕になついてくれ、祐希、祐希と慕ってくれた。
僕も精一杯の愛情を込めてカラト、と呼んだ。
枯れる人で、枯人。
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その日は珍しく太陽が顔を出していて、俺としては旅人の視界を遮る吹雪がなかったため都合が悪かった。
最近は警戒されているのか、この辺りまで人が来ない。このままでは…。
……よく知ったこの地を離れるのは少し危険だが、地の利がきくところに追い込めたなら、獲物は思いのままだ。
国境まで下って、いつもと違うポイントで獲物を待つ。
大丈夫だ、これまでも遠出はあったし、足もそれなりに自信がある。油断さえしなければ逃がすことはない。
生きるためなら、仕方ないんだ。俺は鬼だ。愛さないし愛されることもない鬼だ。

国境近くに来ると雪解けが見られた。暖かいというのは落ち着かない、慣れていないのだ。
薄い黄色の花を見つけてなんともなしに摘んだ。花、ね。弱いし嫌いだ、役に立たない。
そう思い、捨てようとすると――

「え、あ、…旅人?」

――人か。そちらから来てくれるとは好都合。斬ろう。振り返ろうとして…違和感。
さっきの、声。あまりに…幼くはないか。
意を決して振り返ると、自分と同い年ぐらいの少年。茶色い短めの髪は寒そうな首筋を露にしており、そいつはそれを隠そうと草色のマントに顔を埋めている。
同じ年頃の奴は…苦手だ。向こうの街では俺を恐れて決して近づかないようにしていたし、奴らの目は俺を見れば泣きそうになる。
なのにそいつは。

「うわ、白ぉ…。お前真っ白やな、雪みたいや、てか見るだけで寒っ!自分なんで寒くないんそんなカッコで!俺なんかモコモコの服着とってこれやで!寒いわ!まぁ半ズボンはご愛嬌な、子供は風の子~言うてな、言うかアホ!子供は親の子じゃボケ!って、俺思うんやけどどうやろか」

…一方的にまくし立てられた…。
何なんだこいつは。…蓑からすると草木のミノムッチ?

「俺は…旅人、だ。お前は」
「ん?あぁ、やっぱ旅人か。俺はいちじく、花の無い果実の無花果な。俺もただの旅人さーん。ここらはえらい危ないやっこさんがいるらしいけんな、用心してたとこ。お前の名前は?」
「パドック…国の言葉で氷の花、という意味だ」
「かっこいいなぁ!俺とか長男やけいちじくやで、ひどくない!?俺下に六人おるんよ、まず妹が三人、ふたば、みつば、よつば、弟が三人でいつき、むつき、なつきな!なんとこいつら三つ子×二組なんよすごない!?それなら俺も双子とかなりたかったわ~」

どれだけ喋るんだこいつ。
というか…

誰かとの会話なんて、何年ぶりだ。

俺は敵意を解いていちじくを見た。不思議なことにどうやら俺は、とても煩いこいつを楽しんでいるらしかった。
そっと高い壁を乗り越えて、夜だけ僕は自由になった。
誰のものでもない僕となる。
屋敷を出てしばらく歩けば海が見えた。真っ暗で青いかなんて分からなかったけど、とても落ち着いた。
風に乗って運ばれてくるさざ波の音と潮のにおいが心地よかった。

長くて動きにくい服をたくしあげて、水の中に足を入れた。
冷たい。
ゆっくりと歩を進め一定の感覚で打ち寄せてくる波に足を掬われそうになりながら波打ち際を辿った。
朝方までそうしていると星の煌めきが朝焼けへと姿を変える。
白んでいく空はその輝きを次第に強くしていく。
あまりに美しく大きく圧倒的な力、威厳、慈しみ全てがそこにあるよう感じられた。
ああ、ここに世界がある。
なんて 広くて 果てしない

生きてた、僕は。
屋敷へと急いで戻りながらも何度も何度も後ろを振り返った。
太陽が輝いてる。
生まれて初めて味わった、心を揺さ振られる感覚に顔がほころぶ。
海は綺麗だ、空は綺麗だ、全てが美しく思える!
きっと屋敷に戻れば元の悲しい世界だ。だけど、この感覚は……僕を動かしてくれるだろう。

その日は家庭教師に怒られることが多かった。落ち着きがないと。
耳には入らなかった。僕は幸せだった。
だってこんな世界に……生きているよ。



だから、茨の森へと足を踏み入れたんだ
この世はひどく現実味がない、と思う。

例えば自分の見ている光景を客観的にとらえるとか。人の話を聞き流している時とか。
「自分はこの世界の一部でありキャラクターであり行動の権利を与えられ生きているのだ」と無理矢理考えていようとする。
時間が曖昧なものに感じられる。息が苦しくなる。文字も音もまともに認識出来なくなる。
立っているのもやっと、背筋が凍る感覚。
「この世界は妄想の産物ではないのか」という狂った思考の呪縛から逃れられなくなる。
誰にも証明することは出来ない。だけど同時に否定することも出来ないのだ。

眠りすら曖昧。いっそ眠って二度と起きないことが許されるなら、解放される。底なしの闇の考えから……。

は、と足を止める。
一歩先は、闇。
このまま踏み出していたなら――それでも、いいかもしれない。
自分の存在が「罪」だと思うようになった。
生物の肉を食らい、取り込み、咀嚼し、見えない刃で誰もを傷つけてしまう。言葉なんて誰が編み出した。

この場所は夢で現実で自身を表しているものだ。
一歩先は、闇。
それも当たり前か。自分はとうの昔に生きる理由や希望など見つけられなくなって、ただ動物的に生きてきた。

風が冷たく吹いている。
痛みは怖い。けどそれ以上に生きるのは怖い。
夜でも朝でも昼でもない。ああ時間の感覚がない。



一歩先は、闇。
兄様の後で語るなんて恐縮だけど、兄様が自分について教えて下さったから、僕も。

僕は結構大きな一族の娘だったんだ。
貴族って呼ばれる家……え、うん。そうだね、兄様とは正反対だった。
ただ僕は父様と仲が悪くて……物心つく頃には反感でいっぱいだった。
母様は既に亡くなられてて、僕の周りには召使と父様だけだった。
広い屋敷で、血の吐くような教育を毎日受けていた。父様なんて大嫌いだった。

召使達は冷たい目をしていたし、僕を「お嬢様」としか呼ばなかった。僕自身には誰も興味なし。
話し相手にもなってくれなかったなぁ、「お嬢様、お勉強のお時間です」「お嬢様、ピアノを」「お嬢様、テーブルマナーを」それだけ。
だから僕は時々こっそり屋敷を抜け出して、「僕」を取り戻してたんだ。

……あんなことしなければ、皆はまだ生きていたかもしれないのに。



――俺は彼女の兄、だなんて傲慢なことは言えない。
――背負った地獄は俺の、同等かそれ以上なのだから。
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草ポケ大好きの福岡県民。
杏仁豆腐とワラビもちとワッフルとモミジまんじゅうとその他もろもろが好きです(分からん
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